壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

De Nachtmerrie

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幾多もの視線に晒されて。
晒されて。曝されて。
ああ、じゃあぼくはどんな表情で笑えばいいの。

誰れが味方で誰れが敵?
どれが嘘でどれが真実?

ぼくが語った言葉はすべて、
いつの間にか違う意味を持つ。

こわくてこわくてこわいけれど、

立ち止まるなんてできないんだ。

虚像が実像を覆い隠して、
皆が視ているこのぼくは誰れなんだろう。

虚像が実像を押し潰して、
皆がつくりり上げたそうこれがぼくの実像になっていく。

誰れがぼくを知っているというんだ、
ぼくは誰れを信じているというんだ、

 

廃楽園

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うそつきだ。

 世界は終わらなかった。
 いつだってそうだ。

 あいつを抱きしめて。
 くちづける。なんどもなんども。
 もういいじゃん。だれもなんにもいわないよ。
 だからこうしてつながったままほらもうじきおわるんだってさ。せかいは、
 おわるんだよ。

 いままできづかないふりしてた。
 このおもいをじょうよくをすべて。
 なぁ、
 もうおわるからなにもきにすることはないだろう?
 さいごのしゅんかんまでおまえと、
 だっておまえを、
 あいしてるから。
 あいしてたんだよずっと。おまえだけをあたりまえのように。

 せかいがおわるなんてなんにもこわくないかなしくもない。
 おまえとこうしてさいごをむかえられるから。

 うそつき。
 なぁ、
 せかいはおわんない。
 あいつのせなかに、
 伸ばせない手を握りしめる。
 なぁ、
 いまのほうがずっと
 苦しくてかなしくて、
 こわいんだよ。

純心

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 ―――あんなぁ、

 おおきな液晶画面から眼を離さないまま。ひとりごとの様に彼は話す。

 ―――おれ、おかしいんよ。

 手はキーボードを叩いている。
 床に胡座をかいて座り膝の上に置いたキーボード。使い難そうに思うけれどそれがいつもの彼のスタイル。いつもと変わらない。凄まじいスピードで指が動く。画面の中では俺には理解不能な数字が目まぐるしく打ち込まれていく。

 ふぅ、
 たん!

 終わったようだ。彼はキーボードから手を離して。
「おれ、おかしいんよ」
 くるん、と。
 顔だけ俺の方に向けると、もう一度云った。
「・・・・・・?」
 このひとの、おかしい、基準?
 世の常識。その基準からかけ離れているこのひとの? 頭の中に「?」が浮かび続ける。
 彼の好みに合わせて淹れた珈琲。砂糖をたっぷり、牛乳を少し入れて温めに。
「ありがと」
 彼は手渡したマグカップを受け取ると一気に飲み乾した。俺は彼の膝からキーボードを取り、床に置いて、空になったカップに珈琲を再び満たす。2杯目はブラックで。
「この辺が、きゅーって」
 半分ほど飲んで。あらぬ方を眺めながら彼が云う。
「きゅーって、なるんよ」
「この辺・・・・・・胃ですか?」
「胃・・・・・・かなぁ?」
 胃の辺りに眼を向けた。
「苦しくなるんよ」
「え! 心臓?」
「心臓、かなぁ?」
首を傾げて。傍らに伏せてあった雑誌を開く。そのまま、ぱらぱらとページを捲り、気になった記事を見つけたのか読み始めた。
 こんな風に唐突に会話が始まリ終わるのもいつものことだ。俺はポットに残った珈琲を自分のカップに注いで飲み乾した。

   なぁ?
  なんです?
   たいせつなもんが、あるんよ。
  はい、
   たいせつだからな、しまっておきたいんよ。
  はい。
   ほかのヤツにさわられたりな。みられたり。いやなんよ。だからしまっておきたいんよ。

 眼を雑誌に落としたまま。そんなことを云う。

  あなたにもそんな執着心があるんですね。
   うん?
  驚きました、
   そうか?
  はい。
   おれ、けっこうごうよくやで?

「おれ、コーヒーいれる」
「へ? 淹れられるんですか?」
「そのくらいできる。インスタントやけど」
 まぁ、なんだかんだでひとり暮らししているんだから、そのくらいはできる筈だよな。

「濃いですやん! ・・・・・・ってか、苦い」
「そうか?」
「どんだけ入れたんです? 粉」
「え? スプーン、2杯やで?」
「これ食事用のスプーンやないですか」
「やって、スプーンやろ?」
 きょとんとしたまあるい瞳孔が俺を捉える。ああ、もう。だから俺はこのひとを放っておけないんだ。
 綺麗なヒトだと思った。初めてその姿を眼にしたときから。
 貌立ち、躰つき、立ち姿、横顔。すべてが完璧で。
 穏やかな性格も、
 こどもみたいな純粋さも。
 常識なんて通じないところも。
 なにもかも。
 綺麗で。
 その純粋さが、
 時折酷く残酷に思えて。
 ああ、綺麗で。深い深いその瞳の奥に。とりこまれたいと。

「たいせつだからだれにもさわられたくないからどこにもいかないでほしいから、」

 目覚めたとき、―――あれ? いつの間に眠ってしまったんだろう。
 目覚めたとき、
 彼の綺麗な鳶色の瞳が俺を見ていた。
「ここが、きゅーってなって」
 瞬きをあまりしない、彼の大きな瞳。
「ここが、くるしくなって」
 きらきらと、
「なぁ? これって、なんなん?」
 ゆっくりと、桜色の唇が、緩く弧を描く。
 なんでだ? 躰が動かない。
「ずーっと考えてたんや、そしたらな、」
 深まる、笑み。「よーやっと、わかった。うん、わかったで?」
 天使さえも叶わない。その笑顔。

「あ  い  し  て  る」

 ああ、
 このひとにもそんな感情があったんだ。

 動かない躰。声も出せない。
 キコエルのは彼の声。
 映るのは彼の笑顔。

 鈍く光る、銀の刃。
 

心恋のこと

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意味>>心恋(うらごい)> (「うら」は「こころ」の意) 心に恋しく思うさまである。また、何となく恋しく思うさまである。

コトバンクより

 

 

それはそれとして←

 

このシリーズ?に出てくる方言は

似非関西弁です。

 

使用方法が間違っている表現が多々あると思われますが、

脳内補正しつつお読みいただければと思います。

│-゚*)

 

 

 

 

 

孤独な魚はなにをねがう、

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曖昧な記憶。
 なんだっけ、

 時折、
 不意に浮かび上がる画像。
 残像。

 なんやろぉな、
 この、
 キオク。
 ・・・・・・記憶?

 *****

 綺麗な、
 真っ白な、
 鏡?

 やわらかな、きおく。

 桜が、散る。

 なんやったっけ、
『狂い咲き』
 そう、云ったんは。誰れやった?
 薄くけぶる、桜の向こうに。
 白い、
 真っ白な、
 風に、
 波が、

 桜はキライなんよ。
   泣きたくなるから。
 
 *****

 知っているんだ。

 夜の海は暖かくて。
 あの中にこの体を沈めたらきっと。
 とっても安心できるんだってこと。

 たゆたうのは、
 あれはなんだろう。
 知っているんよ。
 どうすればいい?
 くるったふりをすればいい?
 なにもみえないなにもきこえないふりを。
 かんたんだよ。
 なのに、
 むずかしいんだ。
 おまえがよぶから。振り向いてしまう。
「だいじょうぶそんなかおするなただかくにんしたいだけ」
 海の底の、
 やさしさを。

 大丈夫って云っているのに。なんで?
 ばしゃばしゃと水飛沫を上げて。なんでそんな顔で、追って来るんよ。なんで?
 あああたたかいのはおまえのからだだしっているよそんなこと。
 温かい水が首筋を濡らすなんでだよ。
 泣いとるん?

 くるったふりを、
 今夜も、海の底へは行けなかった。
 オマエの温もりに代わる、あたたかななにかがほしいだけなのに。

 

花孕【花ノ檻】

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 ちりちりと空気がひりつく。瞼を開いた《□》の眼に純然な白が映る。
 此処は―――? 一瞬そう浮かんだ疑問。直ぐに寝台だったと理解した。
 花の馨。慣れた匂い。に、微かに混じる違和がある。
 何故かはわからない、
 ざわつく、こころは。なにに反応したんだろう。
 腹に響く重低音と振動が一瞬空間を揺らした。
 真っ白な壁の向こうから、真っ赤な液体が染みこんできた。
 真っ赤な液体は真っ白な床にぽとりと落ち、流れ広がる。
《□》はそっと寝台から降りると、赤い色が進入してくる壁に手をかけた。
 す、・・・・・・と。壁が開く。部屋の外は暗く、鉄錆の、生々しい臭いが、した。
《□》は床に眼を向ける。
 赤い、粘質の液体が床に壁に広がっていた。
《□》は部屋から出る。
 暗がりに慣れはじめた眼に映るのは、《華面》達の屍。
 そこかしこに倒れ重なり血を流す《華面》は全員既に只の物体。
《□》は曲線で出来ている廊下を、《華面》を踏まないようにひたひた歩く。
《□》が身につけている真っ白な薄物は不必要な程裾が長い。それをずるずると引き摺りながら進む。赤い液体を吸い、見る間に裾が染まっていく。
 行き止まりがあるのかそれとも何処かへ出られるのか。
 なにも思考せず、《□》はただ、歩き続けていた。

花孕【朧ナ花】

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 ・・・・・・花が、咲くんだ。

 ・・・・・・ぽん、

  ぼん、
 ぽん、
   ぽん、

 あのね、白い。真っ白な花。
 ぽん、
 ぽん、
 躰の中にあちこちに咲いてね。
 苦しくなる。
 息ができなくなるんだ。
 ぽん、
 ぽん、

「花が、咲くんだよ」

   ぽん、
 目覚めると。音がする。
   ぽん、
 胸の中、躰のそこかしこに咲く。花。
 息が苦しくなってどうしようもないくらい悲しくなって。

  ぽん、
    ぽん、
 花が、咲くんだ。


(暗転)


 躰の中が花で埋め尽くされて。
 頭の中も花で埋め尽くされて。
 想いも、
 思考も、
 埋め尽くされて。

 そうしたらもう、


(暗転)


 花が咲く。
 云えない想い、
 溜めこんだ思いが凝って芽吹いて、

  ぽん、
 ああ、またひとつ。

  ぽん、
 花が開く。

 云いかけて呑み込んだ言葉が、
 願いが、
   溜まって、
 躰を、
   心を、
    埋め尽くすんだ。
 もう、願いは届かない。

  ぽん、
 ぽん、
 埋もれて、
 花に埋もれて、
 想いは、
   心は、


     花に埋もれて死んでいく。

 とおくでだれかがだれかがよんでいる
   よんでいるねようなきがするんだだけどだけどだからほら


             だからだけど、ね、

 

(暗転)


 ゆるやかに、
 花弁が舞い降る、これは、

     セカイノオワリノハジマリ、

 此処は空すらみえないのに、
 ふわりふわり、
 ひらりひらりと、
 はなびらは降り続く、
 真(ま)白(しろ)なはなびらは、
 天使の羽に酷似していて、
 淡雪のように、
 手のひらの上でかなしく溶け消える。

 ・・・・・・うたを、
 そうおもい、■■■が開いた唇。

 ・・・・・・うたうことができるのならば、
 そう思い、けれども、■■■は、

そう、■■■は、
 奏でられない『うた』を、寂しく思う。

 降り続ける花弁は、
 □□□を埋め尽くす、

 そうして、これは、
 おわりのはじまり、
はじまりのおわり、
 あのせかいの、
 このせかいの、


     花が咲く。もうじき、花が、咲くんだよ。

 
(暗転)

 
 ――――――凝った闇に、月の蒼い粒子が堕ちてきた。
 闇はそれを喰らい、一層深淵を深めた。

 ほとり、
 ほとり、
 月が啼く。
 
 ほとり、
 ほとり、
 月が囁く。

 ・・・・・・・・・・・・ああ、花が、咲く、

 覚醒した、その意味を知る。―――花が咲く、意味を、

 そして動き出す、このセカイの、モノガタリが動き出す。

 はじまりをはじめるために、
 おわりをおわらせるために、

     ■■■のための、おわりのはじまり。
     □□□のために、はじまりがおわる。
 さあ、―――舞台を整えよう。願いを叶えるために。
 深層の願いを、
     曝け出せ


(暗転)


 花が散る。
 深い紅色の、柔らかな花弁が散る。
 天を覆う月が散らす紅い花弁。
 無音の中、白い闇の中に紅が緩く渦巻く。
 白い闇。紅い花弁。銀朱に染まった月。
 ゆらゆらと曖昧な存在が徐々に形を取っていく。まばゆい闇の中、漆黒の光が凝っていく。腕が、堕ちてきた月の欠片を無造作に切り裂いた。
 白い闇が声も無く叫んだ。月の欠片が声も無く嗤った。花弁が渦を巻く。闇と光を巻き込み捻入れ編みあげ放出した。
《   》が眼を開けた。光と闇が曖昧に混じり合い、白い世界に色が生まれた。
《   》は腕を軽く一振りする。手にしていた刀から紅い飛沫が飛ぶ。
《   》は天を見上げ、眼を細めた。空には月がひとつだけ在った。
《   》は軽く首を傾げると歩き出す。
《   》の去ったその場所には、いましがた散った筈の深紅の跡も惨劇の痕も無く、ただ大量の花びらが舞っていた。

 

    (暗転)

 

《   》が回廊を進むたびに空気の気配が変わっていく。
 薄っすらと、周囲を包む紅色の霞。
 高く暗い天井から、花びらが降っていた。

 ひらり、

 いつのまにか蝶々が、
 まるで《   》を誘うように、
 はらはらりと、心許無く揺れ飛んでいた。

 

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