壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

何処かへ

 

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見送った。電車。なんとなく、
 ひとりになった。駅のホームはもの悲しい。

 スマホを取りだして、呼び出したアドレス。
 メールを打って、送信。そのまま画面を見つめていた、
 莫迦だな。
 嗤うこともできない。ためいきをひとつ。
 酔っているのかも、しれない。
 反対方向の電車に飛び乗りたくなる。
 でも、
『帰る』場所は、―――
 握りしめたままのスマホが震える。開いた画面に並んだ、短い単語の羅列。思わず口許が緩む。
 強張っていた感情が解けていく。
 どうして、
 こんなにも欲しい言葉を綴ってくれるんだろう。
 スマホを握りしめ、その姿を思う。本当は、聞きたいんだ。声を。
 声を。
 でも―――

 電車が来た。息を吸い込み開いたドアに向かう。
 家に帰るために。
 家族の居る。家庭。帰る場所。

 ココロは何処に行きたがっている?

残像

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ナイテイルノカト。
 思うんだ。いつも。

 静かな横顔。
 うつくしいその貌に、時折。
 ほんの少しだけ浮かぶ。表情。
 泣くのかと。
 その表情を見つける度に、
 胸が痛くなる。

 あのひとは、携帯をただ、みつめている。

 ああ、ほら、また、
 泣きそうで、
 壊れそうで、

 胸が痛くなる。

カナシイ、しあわせ

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 この、こころを、
    捨てた。だからもう、
 恋なんて、
  知らない。

「あいしてるよ」
 優しい、微笑みをいつだって、
 その口許に浮かべて。
「すきだよ」
 そう、いつだってあのひとは優しい。
 だけど、

  知っている。

 あのひとは、
 誰れも見ていない。
 あのひとは誰れのことも見ていない。

「あいしてる」
 その言葉に。こころがない。

 あのひとは誰れも愛していない。
 その、
 優しい眼差しには誰れも映さない。
 言葉だけが、
 優しく、やわらかく。包み込むように、やさしく。

 シアワセを、勘違いしてしまう。
 残酷なこと。あなたは、知らない。
 求めても届かない。掴めない。この手に。

 諦めることしかできない。
 だけど離れることができない。

 残滓が、熾火が、
 この胸の奥に。
 口にできない。想いが、ココロが、
 タマシイが、
 いつかの、
 あのときに取り残されたまま、