壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

cry for the moon【交錯】/5

はる、」 少年は慌てることなく、変わらない口調で俺の背後に呼びかけた。「このひとは『違う』。大丈夫」 少年がそう云った途端。ふ、っと気配が消える。 全身に汗が滲んでいた。なんだこれは。・・・・・・恐怖? 少年は、「お兄さん、」と、俺の手首を掴み、強…

cry for the moon【交錯】/4

きれいなひとだね、」 長い沈黙の後、少年がそう云った。「お兄さんに似ている」 そう云われ、少し驚いた。 似ているなんて云われたことは無い。 俺は少年に向けた彼女の写真を見つめた。 そうか、似ているのか。 血の繋がりを思い、苦さが胸に広がる。「・・・…

cry for the moon【交錯】/3

・・・・・・天使が居るのよ。 そう云って、寂しそうに微笑む彼女。 ・・・・・・そうだいつだって彼女は寂しそうに笑っていた。「・・・・・・天使、」 声に出ていたらしい、少年の視線がまた俺に向いていた。 訊いてみようか。 駄目で元々。少しでもなにか掠れば。「この女を…

cry for the moon【交錯】/2

「お兄さん?」 その声で我に返った。少年が心配そうに俺を見ていた。 どうしてか、俺は吸い寄せられる様に、少年にふらりと近づいた。 少年は、警戒するでもなく、ただ俺を見ている。 鴉が「かぁ」と一声だけ鳴いた。 一瞬空気が密度を増した気がした。何故…

cry for the moon【交錯】/1

あれはいつのことだったか。彼女が云っていた。それを不意に思い出した。 夕陽の残光に、その淡い金色の髪が煌めいている。 なんだか酷く非現実的な情景だった。だから思い出した。彼女がいつか云っていた、あの言葉を。 金色の光に縁取られた輪郭。まるでそ…

cry for the moon【交錯】/追憶

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・ねぇ? 信じる?』 いつだったか、 『・・・・・・ほんとうよ? 黄昏のなかに天使をみたのよ』