壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

カナシイ、しあわせ

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 この、こころを、
    捨てた。だからもう、
 恋なんて、
  知らない。

「あいしてるよ」
 優しい、微笑みをいつだって、
 その口許に浮かべて。
「すきだよ」
 そう、いつだってあのひとは優しい。
 だけど、

  知っている。

 あのひとは、
 誰れも見ていない。
 あのひとは誰れのことも見ていない。

「あいしてる」
 その言葉に。こころがない。

 あのひとは誰れも愛していない。
 その、
 優しい眼差しには誰れも映さない。
 言葉だけが、
 優しく、やわらかく。包み込むように、やさしく。

 シアワセを、勘違いしてしまう。
 残酷なこと。あなたは、知らない。
 求めても届かない。掴めない。この手に。

 諦めることしかできない。
 だけど離れることができない。

 残滓が、熾火が、
 この胸の奥に。
 口にできない。想いが、ココロが、
 タマシイが、
 いつかの、
 あのときに取り残されたまま、