壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

何処かへ

 

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見送った。電車。なんとなく、
 ひとりになった。駅のホームはもの悲しい。

 スマホを取りだして、呼び出したアドレス。
 メールを打って、送信。そのまま画面を見つめていた、
 莫迦だな。
 嗤うこともできない。ためいきをひとつ。
 酔っているのかも、しれない。
 反対方向の電車に飛び乗りたくなる。
 でも、
『帰る』場所は、―――
 握りしめたままのスマホが震える。開いた画面に並んだ、短い単語の羅列。思わず口許が緩む。
 強張っていた感情が解けていく。
 どうして、
 こんなにも欲しい言葉を綴ってくれるんだろう。
 スマホを握りしめ、その姿を思う。本当は、聞きたいんだ。声を。
 声を。
 でも―――

 電車が来た。息を吸い込み開いたドアに向かう。
 家に帰るために。
 家族の居る。家庭。帰る場所。

 ココロは何処に行きたがっている?