壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

孤独な魚はなにをねがう、

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曖昧な記憶。
 なんだっけ、

 時折、
 不意に浮かび上がる画像。
 残像。

 なんやろぉな、
 この、
 キオク。
 ・・・・・・記憶?

 *****

 綺麗な、
 真っ白な、
 鏡?

 やわらかな、きおく。

 桜が、散る。

 なんやったっけ、
『狂い咲き』
 そう、云ったんは。誰れやった?
 薄くけぶる、桜の向こうに。
 白い、
 真っ白な、
 風に、
 波が、

 桜はキライなんよ。
   泣きたくなるから。
 
 *****

 知っているんだ。

 夜の海は暖かくて。
 あの中にこの体を沈めたらきっと。
 とっても安心できるんだってこと。

 たゆたうのは、
 あれはなんだろう。
 知っているんよ。
 どうすればいい?
 くるったふりをすればいい?
 なにもみえないなにもきこえないふりを。
 かんたんだよ。
 なのに、
 むずかしいんだ。
 おまえがよぶから。振り向いてしまう。
「だいじょうぶそんなかおするなただかくにんしたいだけ」
 海の底の、
 やさしさを。

 大丈夫って云っているのに。なんで?
 ばしゃばしゃと水飛沫を上げて。なんでそんな顔で、追って来るんよ。なんで?
 あああたたかいのはおまえのからだだしっているよそんなこと。
 温かい水が首筋を濡らすなんでだよ。
 泣いとるん?

 くるったふりを、
 今夜も、海の底へは行けなかった。
 オマエの温もりに代わる、あたたかななにかがほしいだけなのに。