壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

【欠けてるんだ、】2


 雑踏の中、―――そう、見知らぬひとたちが行き交う、その中に居る。ゆめ。そう、これはゆめ。ゆめのなかで、おれだけが立ち止まり、人の流れに眼を凝らす。
 だけどどうして、
 そんな風に立ち止まってしまうのかわからない。
 けれど確かに、
 なにかを探している。そんな気がする。ゆめを、―――夢をみているって知っている。わかっている。けれど。
 それがなんなのかわからない。
 なにを? ―――なにを?
 おれは、・・・・・・ねぇ? 探している気がする。夢のなかで探しているずっと、

     なにを? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰れを? 


                              〈fragment〉

 
 時折過る、音の欠片。
 きんいろのひかりのなか、佇む華奢な背中。
  胸が、くるしくなる。でも、

 
                              〈fragment〉

 
 再生される旋律。
 それをうたう、その声の主は、不意に振り向き、
  泣きそうな顔をして笑った。
 心臓が痛くなる。手を伸ばしたいのに動けない。
 きんいろのひかり。あまりにもその姿が綺麗すぎて儚すぎて。動けないんだだ。
 だけどこれが、
 誰れの記憶なのか、あれは誰れなのか、

                      わからない。


                              〈fragment〉

 
 震える背中、
 ほろほろと落ちる雫。
 さよなら。って、その声だけがやけに鮮明で、さよなら。って、その言葉がばらばらに砕けて散った。さよなら。の破片は、胸の奥に刺さったままだ。