壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

【ねえ誰れか、】3

 

 ああ、【永遠】という言葉が、こんなにも儚く虚しく霧散していく。
 
「大丈夫。アナタたちのことは、私が守る」
 僕はよっぽどな表情をしていたんだろう。幼い子供を宥めるような優しい笑みを浮かべ、でもきっぱりと云ってくれたのは、僕たちの所属している小さな音楽事務所の社長。あのとき、僕たちを見つけてくれた。そして必死で育ててくれた。彼女がいたからこそ僕たちはこうして存在していられる。このひとは、身内を捨てたりしない。僕たちを、放り出したりしない。このひとがこう云ってくれるのならきっと大丈夫。僕が頷こうとすると、
 がたっ、と。―――大きな音。
 眼を向けると、計登さんが足をテーブルにかけ、揺らしていた。
「・・・・・・・・・・・・計登、」
 社長が呆れたような心配そうな声を出す。
 がッ! がたがたがた、
 計登さんは椅子に座ったまま。腕を組んで。行儀悪く足をテーブルに掛けて揺らしている。
 目深に被ったキャップに隠れて、表情は見えない。
  がたがたがた、
 がたがたがた、
「計登、」
 がたがた、「計登」
がたん!
 テーブルが倒れる。カラカラと、上に載っていたペン
 室内に緊張にも似た静寂が満ちた。
 僕は息を止めていたのかもしれない。

「・・・・・・・・・・・・んな、」
 ぼそっと。「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なに云ってんだよ、」伏せた顔。見えない表情。低い、声。
「・・・・・・計登さん、」
「ふざけんなよ。なにが『守る』だよ。ふざけんな」
 そう云って、計登さんは立ち上がる。
「ふざけんな」
 低い。抑えた声。
「俺が、俺が守るんだよ。全部。あいつらのことも、都古くんのことも、《eternal》のことも。俺が!
 俯いたまま、両手をぎゅっと握りしめて。
「それは俺の役目だ、」
 きっぱりと。
 そう云うと顔を上げた。
 意志の強い大きな眼。眠れていないんだろう、眼の下には濃い隈がくっきりと。
 気圧されて、僕も社長もなにも云えずにいると、
 ふ、っと。力を抜き、少しあらぬ方向を向いてから、首を左右に倒し、
「ついでにアンタのことも守ってやるからよ。仕事取ってこいよ、社長(かーちやん)。バンド活動以外はなんでもやってやるよ」
 不貞腐れた顔をつくりながら、口許を笑みの形に歪めた。