壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

【おなじ■を、みている】;うたうたい/

[Y/3]

「―――なんで居ンのよ」 昼間の晴天がどっか行っちゃって、夜空は厚い雲に覆われている。天気予報って確か夜中に雨が降るって云ってたな。「夜衣こそ、なんで来たのさ。寒いよ?」「そう思うならもうちょっと着込みなさいよアンタは」 云い返すと、「ふふ、確…

[Y/2]

「―――あー、・・・・・・ちがうか、『くるしい』じゃねーわ。『かなしい』?」「ん? なんか云った?」「違うな。・・・・・・なんだろう・・・・・・『くやしい』・・・・・・か、―――って、なによ寿里(じゅり)くん」「なんかぶつぶつ云ってるから」「え? なにが?」「は? 自覚無か…

[Y/1]

「その手を掴んだのも離さなかったのも俺なんだけど。憐れみでも怒りでもましてや愛情なんかじゃ無いんだよな。掴んだ手はもうとっくに癒着してしまって離れることが無いんだ。離すつもりも無いけどさ」 いつだったっけ。俺、なんか酔っ払ってた。 別に訊か…

[S/3]

「―――あいつさぁ、」 紫煙が揺れた―――様にみえた。 錯覚だ。だって夜衣(よい)はもう煙草を喫っていない。夜衣が吐いたのは、ただの白い息。 ぼくは夜衣に眼を向けて、それからその視線の先を追って天を見上げる。 冬の夜空。澄んだ空気に星が瞬いている。月…

[S/2]

空が青いと思い知ったのは夜衣(よい)が吐いた煙草の煙を眼で追いかけたときだった。 ビルの屋上で吹きっさらしの真冬の澄んだ空を見て、セカイは美しいんだなって、理解した。 白く淡い煙草の煙が、青く鮮やかな空にとけていく。あの日―――そう、あの日あの瞬…

[S/1]

ココロが死んでいく。 笑顔を貼り付けたまま。 紛い物の光に照らされた足許は、昔もいまもこの先だって脆く崩れやすくて不安定だ。