壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

2024-01-01から1年間の記事一覧

[Y/3]

「―――なんで居ンのよ」 昼間の晴天がどっか行っちゃって、夜空は厚い雲に覆われている。天気予報って確か夜中に雨が降るって云ってたな。「夜衣こそ、なんで来たのさ。寒いよ?」「そう思うならもうちょっと着込みなさいよアンタは」 云い返すと、「ふふ、確…

[Y/2]

「―――あー、・・・・・・ちがうか、『くるしい』じゃねーわ。『かなしい』?」「ん? なんか云った?」「違うな。・・・・・・なんだろう・・・・・・『くやしい』・・・・・・か、―――って、なによ寿里(じゅり)くん」「なんかぶつぶつ云ってるから」「え? なにが?」「は? 自覚無か…

【ああ、やっぱり、】2

しあわせだった。 だからこわかった。 永遠じゃないから。 永遠なんて無いから。 変わらないものなんてない。 終わらないものなんてない。 だからぼくは、 このしあわせの終わりを見たくなかった知りたくなかった。 なのにぼくは、 このしあわせの、永遠を願…

【ああ、やっぱり、】1

そうだあなたはぼくのひかりなんだ。 だから惹かれたのに。 だから欲しかったのに。 なのにどうして、 どうして手放してしまったんだろう。 知らないままで居られたらよかったのに。 暗闇の中できっとぼくは、 声にならない慟哭を、 届かない焦燥を、 吐き続…

【ねえ誰れか、】6

けれど僕には云えない。 彼が隠せているって思っていたその感情を暴いてはいけないから。 だけどだから誰れかお願い。 神様がいるのならお願い。 ・・・・・・・・・・・・早く夢から引きずり出してよ。 あのひとを、連れ戻してよ。 【永遠】を、僕たちの永遠を、 もう一…

【ねえ誰れか、】5

本当に、【彼】の中には、 なにも無いんだろうか。 あの日々を、 無かったことにしているんだろうか。 本当に? ねぇ、本当に? 「なにを、探しているのかなぁ。おれ、なにか探しているのかなぁ。なんかさぁ、・・・・・・とてもだいじなもの。失くしたくないもの…

[Y/1]

「その手を掴んだのも離さなかったのも俺なんだけど。憐れみでも怒りでもましてや愛情なんかじゃ無いんだよな。掴んだ手はもうとっくに癒着してしまって離れることが無いんだ。離すつもりも無いけどさ」 いつだったっけ。俺、なんか酔っ払ってた。 別に訊か…

【ねえ誰れか、】4

ほんとうは、 計登さんが一番堪えているんじゃないかって、 そう、 思ってる。 本人に云ったら、きっと。「んなわけーねーだろー」って怒るから云わないけど。 ・・・・・・・・・・・・知っているから、云えないけど。