本当に、【彼】の中には、
なにも無いんだろうか。
あの日々を、
無かったことにしているんだろうか。
本当に?
ねぇ、本当に?
「なにを、探しているのかなぁ。おれ、なにか探しているのかなぁ。なんかさぁ、・・・・・・とてもだいじなもの。失くしたくないもの。・・・・・・だけど、それがなんなのか、わかんないんだよ、」
空を見上げて、ゆっくり瞬きをして。
寂しそうに微笑んで。首を傾げる。その横顔。端正な、横顔。―――あれ? と思った。
あのひとに似ている。そう、感じたのは、一瞬だったけれど。
ねぇ、どうして? そうやって探しているくせにどうして?
なんで忘れちゃったの?
そりゃあ、あんなことがあって。それは僕だって計登さんだってショックだったけど。
でも、
でもさ、
「おれぇ・・・・・・たいせつなもの。なんにもなかったはずなのに、」
嘘つき! って。
思わず叫びそうになったのを堪えた。
ふざけんな! アンタにはあるんだよ! あるじゃん! 楽しかったじゃん。あの日々が、アンタに! 時雨さん、アンタにとって、何の意味も無かった物だなんて認めない。
あのひとを、あのひとのこと、大切だからこそ、―――だから、忘れるしかなかったんじゃないか。