壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

[Y/2]

「―――あー、・・・・・・ちがうか、『くるしい』じゃねーわ。『かなしい』?」
「ん? なんか云った?」
「違うな。・・・・・・なんだろう・・・・・・『くやしい』・・・・・・か、―――って、なによ寿里(じゅり)くん」
「なんかぶつぶつ云ってるから」
「え? なにが?」
「は? 自覚無かったの? やばいじゃん。大丈夫?」
「なに云ってんのよ、大丈夫に決まってんでしょーが。それよか寿里くん、さっきから倉見が呼んでるけど」
「え! あ、ホントだ!」
 バタバタと慌ただしく寿里くんが撮影場所に走って行く。その向こうにはあいつが居て、珍しくぼーっと、空を見上げてた。その横顔に視線が縫い付けられる。
 ほんっと、腹を立てるのも無駄だなって思うくらいに整った顔してんだよな。端正。って、ああいう顔のこというんだなきっと。背も高いし、手脚も長い。しかもすっげぇ良いパランスなんだよな。黄金比率でつくったトルソーみたいな。
「――――――声に出てたか、・・・・・・」
 はー、と息を吐いて俺も空を見上げる。
「・・・・・・いーい天気だなぁー」
 背後に感じる視線がある。俺を通り越してあいつを見ているに違いない。きっと、かなしい眼をしているんだろう。俺にはわかる。わかるんだ。
 
 なあ、その手を掴んだのを後悔なんてしちゃあいないんだけどさ、
 もう片方の空いている手は、誰れのためにあるんだろうな。