壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

落果

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おちたんだ。おちつづけているんだ。

*****

冷たい指先が、
ぼくの頬にそっと触れる。

哀しそうに、
微笑んで。
なにか云わなきゃ。
焦るばかりで。ぼくは。
こんなに近くに居るのに。
こうして触れているのに。
指先ひとつ、動かすことも出来ずに。
ただ、
うつむいた。
□□なんだ。
そのひとことが、口に出来ずに。
あなたの指が、離れていくのを感じて。
苦しいんだ。
どうして。
苦しいんだ。
息が出来ない。
顔をあげた。
あなたの後姿が。にじんで見える。
下げたままの手を。
そのまま、硬く握って。
深く、
深く、
息を吸って。
叫んでも。
ことばに、ならない。
行かないで。
□□なんだ。
苦しいんだ。
他にはなにも、欲しくは無い。
世界が壊れても。
世界が終わっても。
あなただけが、居てくれたらいいのに。
行かないで。
此処に居て。
ことばにならない。
タマシイだけが、叫んで居る。
ぼくはただ。
ひとり、
立ち尽くしていた。

*****

けれど。
うたうことをやめたぼくは、
なにも無い。
空虚なんだ。

*****

「すきですよ」
あなたが微笑む。
やわらかいコトバ。
なんどでも、繰り返す。
「あなたを、すきです」
はじめて、
悔やんだ。
うたを、うたっていること。
うたうことしかできない、自分を。

*****

恋なんて、知らないくせに。
愛のうたを、うたってきた。

*****

せつないよくるしいよさけびたいのにこえがでない。

さがしてる。
ねえ、
どうして。
いないのはわかっているのに。
もう、
あなたは、
くるしいよかなしいよなきたいのに。
どうしてわらっているの? ぼくは。
ねえ、
あいのうたなんて。
あなたに届かないのに。
なんて空虚な。
うたなんて。

*****

けれどぼくはうたうことしかできないんだ。

*****

真夜中に眼が覚める。
夢をみるんだ。
暗闇の中で、
声もなく、
泣いているんだ。
声が聞きたい。
逢えなくても。
消せないアドレス。あなたの名前。
ねえ、
どうしてこんなに。
あなたしか、欲しくないのに。