壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

cry for the moon【交錯】/1

あれはいつのことだったか。彼女が云っていた。それを不意に思い出した。

 夕陽の残光に、その淡い金色の髪が煌めいている。
 なんだか酷く非現実的な情景だった。だから思い出した。彼女がいつか云っていた、あの言葉を。
 金色の光に縁取られた輪郭。まるでその姿そのものが発光しているかにも見えた。

 

『・・・・・・ほんとうよ? 黄昏のなかに天使をみたのよ』

 
 
 不躾な俺の視線を感じたのか、少年が顔を上げ俺を見た。
 肌が白い。但しそれはあくまでも日本人の肌の色。
 貌立ちは寧ろ地味だ。
 プラチナに近いブロンドの髪。脱色しているにしては妙に馴染んでいる。とすれば、地毛なのか?
 お坊ちゃん学校の、制服。それを規則通りに乱れなく身に着けている。
 まるで学校案内のパンフレットの如く。
 だから一層、その髪色に眼がいってしまう。
 不自然ではないけれど。不自然ではないからこそ。―――違和感。
 そんなことを思っていると、ふと気づいた。
 少年が不思議そうに俺を見ている。
「こんな時間にこんな処にひとりで居たら危ない」
 ・・・・・・ああ、違うな。『俺』が、コイツを見ているんだ。そう気づいて。・・・・・・それを取り繕う様にそんなことを云ってしまった。
 少年はきょとんとしている。まるで危機感のない、あどけない表情。
「先週、」そう云いかけて。やめた。あれは只の噂だ。

 先週ここで、人が死んでいたらしい。
 確かにこの辺りの治安はあまり良くは無い。いや、はっきり云って悪い。
 けれどそれなりの秩序があって、人死にが出るなんてことは、聞かない。少なくとも、俺は聞いたことが無い。
 人が死んでいたらしい。
 喉を切り裂かれていたらしい。
 瞼を縫い合わされていたらしい。
 まるで、飽きられたおもちゃのごとく、惨く、無造作に、捨てられていた。らしい。
 噂だ。
 表だって報道はされていない。だからこれは『噂』だ。
 きっとこの少年が住まう、上品で穏やかで微温湯の様なお綺麗な場所には流れていかない、その世界には無縁の噂だ。
「この辺りは、お前みたいなお坊ちゃんが居ていい場所じゃない」
 代わりにそう云うと、少年は、得心がいったように少し笑った。
「お兄さんは、ここに居てもいいひとなんですか?」
 その見目から考えていたよりは低い、大人びた声が問い返してきた。
 俺は少し躊躇って、「そうだ」と答えた。
 少年は、また少し笑みを深くして、「そうなんだぁ、」と、俺から眼を離し、正面に眼を向けた。
 俺もつられて少年の視線の先を追う。
 木々に遮られ、見えない向こう側にあるのは、『総てを棄てた者』の窟。【nameless】。
 あの街・・・・・・そうだ、今やあそこは『街』なんだな。かつての九龍城の様な不可侵のスラム街。
 あそこに・・・・・・居てくれたら良かった。だけど、・・・・・・、