俺はひとり、昏い場所に立っている。あの日から、彼女が消えたあの日から。
暗がりの中、ただ待ち続けていた。暗闇の中、闇雲に探し続けていた。
光は届かない。そうか、もう―――もう、
悪寒で我に返った。あの瞬時に、流れたらしい汗が、躰を冷やしはじめていたせいだ。
じじじじ、と。いつの間にか消えていたらしい外灯が点く。不安定な灯り。それでもその弱い光が俺の思考を現実へと引き戻した。
既にあのふたりの姿は無い。深く息を吐いて、強張った指を数回握った。
・・・・・・ああ、―――ああ、そうか俺は、恐怖していたのか。
妙に冷静に、そう理解をし、
そしてあの美しくも歪なふたりを思い、苦く嗤った。
あのね、お兄さん。
天使はね、
ニンゲンを救ったりしないんだよ。
カミサマだって、
あの月の向こう側からさ、
ただ、下界を眺めているだけなんだ。
ひともそうだ。
ひとは他者を救えない。
だって自分ですら救えないでしょう?
「ひとをすくえるものなんて、なんにもない」
あどけない、無垢な表情で酷く冷ややかにそう云う少年は、
だけど俺には何故か、とても慈悲深くみえた。