壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

cry for the moon【交錯】/7

俺はひとり、昏い場所に立っている。あの日から、彼女が消えたあの日から。
 暗がりの中、ただ待ち続けていた。暗闇の中、闇雲に探し続けていた。
  光は届かない。そうか、もう―――もう、
 悪寒で我に返った。あの瞬時に、流れたらしい汗が、躰を冷やしはじめていたせいだ。
 じじじじ、と。いつの間にか消えていたらしい外灯が点く。不安定な灯り。それでもその弱い光が俺の思考を現実へと引き戻した。
 既にあのふたりの姿は無い。深く息を吐いて、強張った指を数回握った。
 ・・・・・・ああ、―――ああ、そうか俺は、恐怖していたのか。
 妙に冷静に、そう理解をし、
 そしてあの美しくも歪なふたりを思い、苦く嗤った。

   あのね、お兄さん。
   天使はね、
   ニンゲンを救ったりしないんだよ。
   カミサマだって、
   あの月の向こう側からさ、
   ただ、下界を眺めているだけなんだ。
   ひともそうだ。
   ひとは他者を救えない。
   だって自分ですら救えないでしょう?

「ひとをすくえるものなんて、なんにもない」

 あどけない、無垢な表情で酷く冷ややかにそう云う少年は、
 だけど俺には何故か、とても慈悲深くみえた。