壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

cry for the moon【交錯】/6

そして少年は『良くあるハナシ』を語る。
 ・・・・・・近くも遠い国で、おんながひとり、捨てられた。と。
 まるで飽きられた人形の様に、
 まるで壊れてしまった玩具の様に、
 無造作に、
 廃棄されていた。と。
 そんなことは日常茶飯事で、
 そんなことは『ヨクアルハナシ』で、
 そんなことは誰れも気にも留めない些末な事だと。

 弱き者の末路。

 救いはそこに無いのか、
 弱き者は、救われはしないのか、

「ひとのいのちなんてとくべつなものじゃないよね」
 あの少年は無邪気に、曇りの無い眼差しで、
 そう微笑んで傍らに立つ『はる』の手を取った。

「・・・・・・・・・・・・よくある、はなし・・・・・・、」
 ああ、・・・・・・ああ、そうなのか。
 ひとのいのちは、そんなにも軽いものなのか。

 俺が守りたいと思っていた彼女は、
 俺を守るためにその身を闇に投じた。
 例え取るに足らない命でも、
 俺にとっては重く、大切だったのに。
 だけどああほら既に「だった」なんて過去のものとしてしまっている。

 救えない、
 届かない、

 闇の底は想像以上に冥く深く底無しだ。