壱色ノ匣:ヒトイロノハコ

モノガタリ綴り

【欠けてるんだ、】4

 

 
   ああ、そうか、おれは、

 

                       約束をしたんだ、―――約束を、だから、

 

   だからそうか、たいせつな■■を手放したから、だから、
 
   だからおれはまた、
                                                             

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                      空っぽだ。

【欠けてるんだ、】3

 

 夢なのか現実だったのか、
 それすらも曖昧で、
 しあわせという言葉の意味が、
 何故かひどくかなしく響く。

 どうしてだろう、
 なにかを忘れてきた気がするんだ。
 でもなんなのか、
 それがなんなのか、
 わからないんだ。

 何処かにあるんだろうか、
 まだ何処かにあるんだろうか、
 けれど何処へ行けばいいのか、

 わからなくておれはずっと途方に暮れてる。

 

 あのきんいろのひかりと、あの空の色。


 どうしてこんなにも、
 くるしくなるんだろう。

 

【欠けてるんだ、】2


 雑踏の中、―――そう、見知らぬひとたちが行き交う、その中に居る。ゆめ。そう、これはゆめ。ゆめのなかで、おれだけが立ち止まり、人の流れに眼を凝らす。
 だけどどうして、
 そんな風に立ち止まってしまうのかわからない。
 けれど確かに、
 なにかを探している。そんな気がする。ゆめを、―――夢をみているって知っている。わかっている。けれど。
 それがなんなのかわからない。
 なにを? ―――なにを?
 おれは、・・・・・・ねぇ? 探している気がする。夢のなかで探しているずっと、

     なにを? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰れを? 


                              〈fragment〉

 
 時折過る、音の欠片。
 きんいろのひかりのなか、佇む華奢な背中。
  胸が、くるしくなる。でも、

 
                              〈fragment〉

 
 再生される旋律。
 それをうたう、その声の主は、不意に振り向き、
  泣きそうな顔をして笑った。
 心臓が痛くなる。手を伸ばしたいのに動けない。
 きんいろのひかり。あまりにもその姿が綺麗すぎて儚すぎて。動けないんだだ。
 だけどこれが、
 誰れの記憶なのか、あれは誰れなのか、

                      わからない。


                              〈fragment〉

 
 震える背中、
 ほろほろと落ちる雫。
 さよなら。って、その声だけがやけに鮮明で、さよなら。って、その言葉がばらばらに砕けて散った。さよなら。の破片は、胸の奥に刺さったままだ。

 

【欠けてるんだ、】1

 

 ゆめをみてた。
 焦燥感が残っている。
 起き上がって両手をじっと見た。
 なんだろう、
 なにかを掴みたかった。そう、おれはなにかを掴みたかった。けれど、
 届かなかった。あれは、

 ・・・・・・・・・・・・なんのゆめだったか忘れたけど。あれは、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだったのかなぁ、

 

〈暗転〉

 

 

  胸の奥で花が揺らめく。
 ―――【  】が尋ねる。心底不思議そうにぼくに問う。
  胸の奥で花が震える。
 ああ、こんなにもぼくの躰には花がみっしりと根を張っているのに。
 ああ、こんなにもぼくの心は果てしなく空虚なんだ。
 花たちはほろほろと花弁を散らす。それは涙のようにはらりはらりと足許に零れる。
  ―――【  】が尋ねる。心底不思議そうにぼくを眺める。
  もう、いいんだ。もう、終わらせたんだ。なのに、
 ――――――――――――なのに、―――――――――――――――どうして?


                                〈暗転〉

 

【疲れたなあ】3

 

 くるしい、
 くるしい、
 くるしい、
 くるしい、
        ・・・・・・・・・・・・だってまだこんなにも、
 あなたの残滓がぼくの細胞ひとつひとつに沁みついている。
 だってあなたはぼくの寄す処(よすが)だった。
   美しかったあのセカイは色を失った。
  ぼくはどうやって、
         ことばを紡げばいいんだろう。

 

【疲れたなあ】2

 

 諦めるとか、
 忘れるとか、
 どうやったらできるんだっけ。

  あの日から毎日を、日常を繰り返してきたくせに、
 昨日までと明日からの、
 区切り方がわからないんだ。
 
 予定を分刻みで詰め込んで、
 楽しいと思い込んで笑って燥いで、
 くたくたになって泥の様に眠りに落ちても、
 明け方に見る、淡い陽炎みたいな夢の欠片。
 曖昧な、形にすらなっていない揺らぐそのカケラが、
 頭の片隅にこびりついたまま拭えない。
 ふとした瞬間に、
 気配を感じて。
 空白の刹那に、
 過るなにかを、
 全身全霊で、気配や色や音やにおいを、
 探している。自覚のないまま。

 未練。
 きっとそうなんだろうでも、

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・手を離せば楽になれるんだと、確かにあのときはそう思ったんだ。